跳び箱論争
「跳び箱論争」とは、「跳び箱を跳ばせることが、どうして教師の世界の常識にならなかったのか」という向山の問題提起に関する論争である。
斎藤喜博氏が「15分あればクラス全員に跳び箱を跳ばせられる」と主張したとき、研究者もベテラン教師もこぞって賞賛した。だが、その跳ばせる技術そのものは公開されなかった。
向山は、『現代教育科学』1981年9月号において、「跳び箱を跳ばせることが、どうして教師の世界の常識にならなかったのか」と問題提起を行った。向山は、自身の著書等において、誰でも跳び箱を跳ばすことのできる「向山式跳び箱指導法」(※1)を公開していた。
向山の問題提起に対して、「跳び箱を跳べない子がいても一向に差し支えない」という反論も数多く寄せられた。これらの反論に対し、向山は「もちろん跳べない子がいても構わない。しかし、全員を跳ばせる技術があるのに、それを身につけない教師がいることとは別である」と反論した。
(※1)
「向山式跳び箱指導法」とは、向山が開発した跳び箱が跳べない子をわずか数分の指導で跳ばせられる指導方法である。
跳び箱が跳べない子は、「腕を支点とした体重移動」ができない。この感覚を体験させるために、向山はA式とB式の2つの方法を行った。
「向山式跳び箱指導法」は、TVや新聞、雑誌等で何度も取り上げられ、全国に広がり、何千人もの子が跳べるようになった。
A 式
① 跳び箱をまたいで座らせる。
② 跳び箱の端に⼿をつかせる。
③ 図のように、両⾜の間に⼊れた両⼿で体を持ち上げさせる。
④ とび下りさせる。
「跳び箱を跳ぶというのは、このように両腕で体重を⽀えることなのです」と言い、①~④を5~6回やる。
B 式
① 補助する⼈は跳び箱の横に⽴つ。
(右利きの⼈は左側、左利きの⼈は逆。以下同様)
② ⾛ってくる⼦どもの上腕を左⼿で⽀える。
③ 右⼿で⼦どものお尻の下を⽀え、⼦どもを送り出す。
この②と③は同時に⾏う。右⼿と左⼿は上へは動かさず、平⾏に動かす。
何回か繰り返しているうちに、⼿にかかる体重が軽くなる。「⼤丈夫だ」と感じてから、2 回ぐらい余分に跳ばせる。このとき、⼿で⽀えるふりをしながら、⼿を引っ込める。
7、8 回くらいで、ほとんどの⼦は跳べるようになる。
跳べたら、もう⼀度やらせる。偶然ではなく、本当にできたことを確認させる。