「技術」と「技能」
向山一門
向山の実践を継承し、次の世代へ発展させるシステムとして誕生したのが、「向山一門」(1993~)である。
茶道・花道・能・狂言など、百年、千年と続いている芸道は、「師匠-弟子」の関係の中で創られてきた。教師の授業技量も、これらの芸道と同じ面を持つといえる。2023年、向山一門には、「直弟子」「孫弟子」「曾孫弟子」まで、約300名が所属している。
向山型国語
「日常生活の中では身につけることができない国語の力」を習得させるために、向山は以下の基本システムを創り出した。
1 向山型要約指導:「桃太郎」の要約、段落の要約、全文の要約など。向山は、正しい方法で要約すれば、要約した子どもたちの結果はどれも同じになると主張した。
2 向山型説明文指導:問いの段落を問う、問いの文を問う、問いの一字を問う、答えの文を問うなどの「構造中心型」の授業。および、トピック・センテンス、要点となる一文を見つける、全文要約などの「要約中心型」の授業。
3 向山型作文指導:文を長く書かせる授業、書き出しの授業、イラスト作文、視点変換作文、鉛筆対談作文、パロディ作文、日記指導、返信の書き方など。
4 向山型分析批評:話者と作者、視点、対比、主役と対役、イメージ語、クライマックス、モチーフ、主題、討論、評論文など。
5 漢字指導システム:指書き、なぞり書き、写し書き、空書き、テストのやり方など。
6 漢字文化の授業:漢字の成り立ち、漢字の意味など。
7 五色百人一首指導システム:最初の指導、読みのテクニック、リーグ戦など。
8 「テストの解き方」基本パターン:書き抜き問題、要約問題、理由や目的を問う問題、「どのように」「どうやって」問題、述語を問う問題、設定を問う問題、文章構成、指示語の問題、接続詞の問題、書き直し問題、文の組み立て、言葉の意味、熟語・文字、漢字など。
9 向山型問題づくり指導:問題づくりに取り組ませる前提条件、一問できたらもってきなさい、例示のパーツ、個別評定のパーツ、問題集をつくるパーツ、問題集を解くパーツ、物語の主題に迫るためのパーツなど。
10 言語・語句指導システム:「かける」の授業、入門期の文字指導、くっつきの「を」、五十音図の授業、「○○○しい」の授業、辞書を作る人になったつもりで、漢字パズルなど。
11 一時(いっとき)読解と一字(いちじ)読解:一時読解とは、題名・作者名・登場人物等の設定や指示語等の基礎的問題をテンポよく次々と答えさせる読解指導のこと。一字読解とは、「わたしのげんとう」(私の幻燈)の「の」の意味のように短い言葉を検討させる読解指導のこと。
向山型算数
算数の指導にあたっては、次のような実践的な問題があった。
1 できない子をどのように指導するのか
2 はやく計算ができてしまった子をどうするのか
3 練習スキルをどのようにするのか
4 授業のはじめをどうするのか
5 ノートチェックをどうするのか
6 これらをすべて満足させる算数の授業とは、どのようなものなのか
このような問題を解決するために、向山はまったく新しい算数の授業システムを創り出した。それが、向山型算数である。向山型算数には、以下のような特徴がある。
1 教科書を使って、教科書通りに教える
2 リズムよくテンポよく教える
3 1時間に1回以上、ノートチェックを行う
4 授業の終わりに『あかねこ計算スキル』を使う
「向山型算数」の広がりとともに、全国の教室で「平均点90点以上になった」「算数のできない子ができるようになった」という事実が次々と誕生した。
「水道方式」や「問題解決学習」などの従来の算数指導法は、理論から生まれた。教師の多くが「理論が正しければ、いい方法だ」と考え、教室へ持ち込んだ。その結果、授業進度は遅れ、「できない子」はできないままとなり、たくさんの算数嫌いを生み出した。「理論」と「実践」との間には、大きな隔たりがあったからである。